Welcome to Yusuke Fuke's web site

福家悠介の個人ウェブサイトです。

研究の舞台、ミャンマー・インレー湖上にて(2019年)。

研究内容

己の興味の赴くままに、陸水生物を対象とした生物地理・進化生態・自然史研究を進めています。

インレー湖における淡水魚類の進化的起源に関する研究

ミャンマー、シャン州の高原にあるインレー湖は、長い歴史をもつ古代湖のひとつで、固有種含む多様な魚類が生息しています。私は、本地域の淡水魚類に着目して、群集および固有性形成過程や系統分化、適応進化に関する研究を行っています。浅く小さな湖ながら、インレー湖はなぜ高い多様性・固有性を有しているのか、他の古代湖とも比較しながらその謎を解明したいと思っています。以下に、これまでに出版された主な成果を簡単に紹介します。


中程度に隔離された古代湖における固有種の起源 (Fuke et al. 2024. Zoologica Scripta)

インレー湖とその周辺域に広く分布するタイワンドジョウ科の固有種 Channa harcourtbutleri の起源を調べた研究です。最近縁種である Channa limbata を含めた系統地理解析、形態解析、そしてインレー湖周辺域における集団構造解析の結果、固有種には、少なくとも2つの遺伝的・形態的に判別可能な系統が共存していることが判明しました。さらに、固有種は他の地域から複数回に渡ってインレー湖周辺域に侵入してきたことが示唆されました。


一属一種の固有種における隠蔽された遺伝的多様性 (Fuke et al. 2022. Journal of Fish Biology)

インレー湖とその周辺域に広く分布するコイ科の固有属・種である Microrasbora rubescens の集団構造と系統関係を調べた研究です。その結果、本種は少なくとも3つの地域集団から構成されることが明らかになりました。それらは遺伝的には明瞭に分化していましたが、形態的に差異は認められませんでした。本種はどの地域集団も流れの緩やかな湖周縁部や河川、湿地に生息していたことから、止水環境への適応が河川を通じた集団間の交流と形態的分化を妨げた可能性があります。


京大総博で発見されたアナンデールのインレー産魚類コレクション (Fuke et al. 2021. Ichthyological Research)

インレー湖において、初めて本格的な水生生物の調査を実施したイギリスの動物学者であるネルソン・アナンデールが京都帝国大学の大津臨湖実験所に寄贈したインレー湖魚類標本を偶然京都大学総合博物館で発見したという報告です。12ロット33個体12個体の標本について、再同定を行い、写真と共に報告しました。タイプシリーズも含まれる貴重なコレクションです。標本の画像データ一覧はこちら


Hopongの魚類相の報告 (Kano, Fuke et al. 2022. Biodiversity Data Journal)

インレー湖の北東にあるHopongという地域における魚類相の調査に関する研究です。複数年にわたる調査の結果、25種の淡水魚類を確認しました。興味深いことに、うち7種はインレー湖の固有種とされていた種でした。そのうち少なくとも3種はインレー湖周辺の集団との遺伝的な分化が認められました。一方で、25種うち8種は外来種と推測されました。また、1種の未記載種と思われる種も発見されました。

 

ミナミヌマエビの系統地理と外来種との相互作用

一生を淡水域で暮らすミナミヌマエビは西日本に広く分布するカワリヌマエビ属のエビです。本種は生物地理学的に大変興味深い生き物ですが、様々な理由のために、最近はほとんど研究されていません。理由のひとつに、大陸産のカワリヌマエビ属が本州の各地に侵入・定着しており、それらと在来種の区別が難しいというのがあります。しかし、在来種と外来種は遺伝的に明確に区別が付くので、ゲノム解析をベースに系統地理、集団構造、繁殖、種間相互作用など、色々なことを調べています。以下に、これまでに出版された主な成果を簡単に紹介します。


琵琶湖周辺におけるミナミヌマエビの再発見と近縁外来種の侵入状況 (Onuki & Fuke 2022. Conservation Genetics)

滋賀県では絶滅したと考えられていたミナミヌマエビを琵琶湖流入出河川から再発見した、という研究です。滋賀県におけるミナミヌマエビの発見は約1世紀ぶりとなります。その一方で、近縁の外来種シナヌマエビが琵琶湖内や周辺河川に広く定着していることと、在来種ミナミヌマエビと交雑している可能性が高いことが遺伝的・形態的解析から明らかになりました。両種は遺伝的には明確に区別することができますが、これまで種判別に用いられてきた形態形質だけでは完全には判別できないことが判明しました。京大からのプレスリリースはこちら


五島列島福江島におけるミナミヌマエビの初記録 (福家ほか 2021. Cancer)

長崎県の離島である福江島において初めてミナミヌマエビを発見したという報告です。イントロと考察で、これまでのカワリヌマエビ属研究の簡単なレビューを行っています。ミナミヌマエビの福江島集団は、遺伝的に分化した独自の地域集団であることがわかりましたが、その生息地は今のところ一ヶ所しかなく、非常に危機的な状況です。この成果は長崎県のレッドデータブックに反映されたり、論文を読んだ色々な方から反応があったりして、出してよかったなぁと思うことが多いものとなりました。

 

自然史の記載的研究

フィールドで遊んでいる時に見つけた新知見は可能な限りすべて世に出すように心がけています。山から川まで、幅広くフィールドを楽しんだ結果生まれた副産物です。最近は人からいただいた標本を元に論文を書くことが多く、複雑な気分です。


日本初記録のイボユビテナガエビの報告 (Fuke & Maruyama 2023. Check List)

宮古島から日本初記録となるテナガエビ属の一種を報告しました。また、日本におけるテナガエビ類の種多様性が増しました。遺伝研からのリサーチハイライトはこちら


グアム初記録のオオテナガエビの報告 (Fuke & Sasazuka 2021. Check List)

グアムから初記録となるオオテナガエビを報告しました。本種はハワイと琉球列島、メラネシア、ポリネシアに分布しています。グアムの集団は遺伝的にも形態的にもハワイより琉球列島の集団に近縁であることが明らかになりました。第二著者の精力的な調査の賜物です。


ハイの対捕食者行動の記載 (Fuke 2018. Herpetological Review)

中琉球の固有種であるハイ(当時はヒャンの亜種)の対捕食者行動を複数例観察し、これを初めて記載しました。研究者やマニアの間では、ハイを掴もうとすると尾の先端で突いてきたり、尾を振ったりするというのは知られていましたが、それを詳細に報告した文献は今までありませんでした。ハイはヒトに捕まえられそうになると、頭を隠し、尾を丸め振ります。実際に掴まれると、尾を巻き付けてきて、先端の尖った部分を押し付けてきます。


アカマタのリュウキュウヤマガメの初捕食例 (福家 2016. Akamata)

沖縄島北部において、アカマタによるリュウキュウヤマガメの幼体を捕食を観察し、これを報告しました。ウミガメからオオウナギまで食べるアカマタですが、リュウキュウヤマガメも食べているとは思いませんでした。関係者に迷惑をかけながら書いた初めての学術論文です。

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